続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)治療実績報告書
1. PPPDとは? 当院の治療アプローチ
PPPDの定義と機能性疾患としてのメカニズム
PPPD(Persistent Postural-Perceptual Dizziness) は、 めまいやふらつきが治まった後も、 フワフワ感やグラグラ感が3ヶ月以上、 ほぼ毎日持続する病気です。
特に、 立ったり歩いたりする動作や、 スマホのスクロール‧ 人混み‧ 陳列棚などの「視覚刺激」 によって症状が悪化するのが特徴です。
これは耳や脳の構造的な異常ではなく 、 過去のめまいの記憶やストレスにより、脳のバランスを司る部分が「視覚や体の感覚に過敏に反応しすぎる状態」 になってしまった「脳の機能性疾患」 です。 検査で異常が見つからないにも関わらず、つらい症状が続く のはこのためです。
当院独自の「少量SSRI療法」
PPPDは脳内のセロトニンという神経伝達物質の調整が関与しているため、 SSRI(セロトニン再取り込み阻害剤) が有効です。 しかし、 一般的な用量では副作用(吐き気など) が出やすく 、 治療中断の原因となります。
当院では、 Sertraline 12.5mg という、 通常の1/4〜1/8程度の「極少量」で投与を行います。 これにより、 副作用を最小限に抑えつつ、 脳の過敏性を鎮める高い治療効果を実現しています。
3つの学術論文による科学的エビデンス
当院では、 この治療法の有効性と安全性を科学的に検証し、 以下の3つの学術論文として発表しています。 本報告書では、 これらのデータに基づいた治療実績を詳細にご報告いたします。
論文1 (2022年): 138例における少量SSRI療法の有効性と安全性
論文2 (2023年): サブタイプ別(視覚刺激型など) の治療効果の比較
論文3 (2025年): 最適な治療継続期間と再発予防に関する研究
2. 論文1の成績: 少量SSRI療法の有効性
【引用文献】松吉秀武、 山田卓生、 後藤英功. 持続性知覚性姿勢誘発めまいに対する少量セロトニン吸収阻害剤の有効性についての検討. 耳鼻と臨床 68: 251-257, 2022.
対象と先行疾患の内訳
当院でPPPDと診断され治療を行った138例(平均年齢53.3歳) のデータです。 PPPDは他のめまい疾患が引き金(先行疾患) となることがほとんどです。

治療成績と経過
| 有効率(改善以上) | 治療継続率 | 副作用発現率 |
| 75.9% | 79.2% | 25.8% |
| 4人中3人に効果あり | 副作用が少なく続けやすい | 主に軽い吐き気等で継続可能 |

3. 論文2の成績: サブタイプ別治療効果
【引用文献】松吉秀武、 山田卓生、 後藤英功. 持続性知覚性姿勢誘発めまいのサブタイプ別治療効果についての検討. 耳鼻と臨床, 2023年頃発表.
PPPDの3つのサブタイプ
PPPDは症状が悪化する要因によって、 以下の3つのタイプに分類されます。
| 視覚刺激優位型 | 75%(スマホ‧ 人混み‧ PC画面‧ スーパーの陳列棚で悪化) |
| 能動運動優位型 | 10%(歩行‧ 起立‧ 頭を動かす動作で悪化) |
| 混合型 | 15%(視覚刺激と運動の両方の特徴を持つ) |
重要な発見
「視覚刺激優位型」 の患者様は、 治療前の重症度が最も高いですが、当院の少量SSRI療法で最も劇的に改善することが分かりました!
サブタイプごとの改善度( NPQスコアの減少幅)

起立性調節障害( OD) とPPPD
思春期のお子様に多い起立性調節障害(OD) をきっかけにPPPDを発症するケースも多く 見られます。 この場合も、 特に視覚刺激優位型であれば87.5%という極めて高い有効率が確認されています。 不登校の一因がPPPDである可能性も視野に入れ、 治療を進めることが重要です。
4. 論文3の成績: 治療継続期間と再発予防
【引用文献】
・松吉秀武、 山田卓生、 後藤英功. 持続性知覚性姿勢誘発めまい症例に対する少量セロトニン再取り込み阻害剤による治療継続期間についての検討. 耳鼻と臨床 71(5): 211-218, 2025.
・A Clinical Study onthe Duration of Treatment with Low-Dose Selective Serotonin Reuptake Inhibitors in Patients with Persistent Postural-Perceptual Dizziness (PPPD).
治療継続期間の重要性
PPPD治療で最も大切なのは「症状が良く なっても自己判断で薬を中断しないこと」 です。 脳を安定した状態に完全にリセットするには時間が必要です。
- 最低43週間以上の継続服薬を推奨します。
- 治療継続中に一時的に症状が悪化しても、 そのまま内服を継続(平均8週間) することで、 約6割(57.1%) の方が再び改善しました。

2つの推奨治療プラン
| 治療案①:じっくり継続プラン | 合計約85週(1年半〜2年) の継続 メリット: 再発リスクを最小限に抑える、 最も推奨されるプランです。 |
| 治療案②:お休み&予防プラン | 6ヶ月内服→ 約1年休薬 → 予防的に10週再内服 メリット: 長期の連続内服が難しい方に向けた代替プランです。 |
5. まとめ
当院のPPPD治療における3つの結論
☑︎ 高効果: 当院独自の少量SSRI療法で、 約76%の患者様に有効です。
☑︎ 特効: 視覚刺激優位型(スマホや人混みが苦手な方) にこそ、 最も高い効果が期待できます。
☑︎ 継続が命: 再発を防ぐため、 1年半〜2年の治療継続を目標とします。
治療のステップ
- 初診とPPPD診断: 詳細な問診(NPQ問診票) と検査で診断を行います。
- 少量SSRI療法の開始: Sertraline 12.5mg(極少量) を処方します。
- 4週後に効果判定: 初期の症状改善を確認します。
- 継続治療: 最低43週、 推奨85週の継続治療を行います。
- 服薬調整: 症状が完全に安定した後、 慎重に減薬‧ 終了を検討します。
「長引くめまいは治らない」 と諦めないでください。
PPPDは適切な診断と少量SSRI療法によって克服できる疾患です。
特に「スマホや人混みが苦手」 という視覚刺激優位型の方こそ、大幅な改善が期待できます。