2025/07/28
地震は重大な公衆衛生上の問題を引き起こし、そのひとつに「地震後めまい症候群(Post-Earthquake Dizziness Syndrome:PEDS)」があります。この疾患は、めまい、ふらつき、不安定感、吐き気、運動感覚などを特徴とします。本総説では、地震の特性、建築物の構造特性、および人間の神経生理との複雑な相互関係を検討し、特に自律神経系の役割に焦点を当てています。PEDSの有病率は、地震の規模、人口統計、環境条件によって異なり、北海道、熊本、トルコ、ジョージア、福島、ネパールなどの地域では20%~40%に達することがあります。病態生理には、耳石器の機能障害や良性発作性頭位めまい症などの前庭障害、心理的ストレス、構造物の傾きや損傷による環境の不安定化が関与しており、これらが前庭・固有感覚・自律神経系の統合を妨げます。建築物の種類や揺れ方も症状に大きく影響し、高層建築物の揺れや、剛性の高い低層建築物の激しい衝撃が前庭系への過負荷を引き起こします。低周波の地震は高層建築物に、高周波の地震は剛性の高い建物に影響しやすく、余震の繰り返しは回復を遅らせます。自律神経系、特に交感神経の過活動は、めまいやストレスに関与し、悪循環を形成します。治療には、耐震補強、前庭リハビリテーション、認知行動療法、薬物療法、感覚刺激の競合を軽減する環境調整など、学際的なアプローチが求められます。さらに、パニックを最小限に抑え、地域のレジリエンスを高めるためには、住民への教育と備えが不可欠です。